☆雪兎☆ 「黒様、見て」 魔術師の手のひらには雪で拵えた小さなうさぎ。 かつての旅で雪国を訪れた際、自らもうさぎのように白い 不思議生物に教えてもらったものだ。 「紅い瞳が君とお揃いだよー」 刀の手入れをしていた忍がつと視線を寄越す。 その深紅の瞳を見て、魔術師は少しばかり後悔した。 ――そう言えばあの時、モコナと一緒にからかって、 ものすごく怒ったんだよねぇ・・・。 忍は刀を置き、縁側から庭へと降りてくる。 怒鳴られることを覚悟してわずかに身構えたが、 一向にその気配は無い。 その表情は、むしろ穏やかと言ってよかった。 大きな手が伸びてきて、魔術師の頬に添えられる。温かい。 「・・・黒様は変わったね」 魔術師は蒼い瞳を猫のように細めて笑った。 その顔があまりにも幸せそうで、忍もまた口許を緩める。 「変わったのはおまえだろう」 身を切るような冷たい雪も、敵と定められたはずの相手も、 今ではもう魔術師を脅かすものではなくなっていた。 Thank you for【旅亭ねま屋】ねま様