【夏バテには】 今年もこの時期がやってきた・・・ 本来ならチリンッという綺麗な音色に耳を傾けたり鹿威しの涼やかな水の流れに見いったりと季節を体感して居たいところだがそんな事を言ってられる程の余裕は無い 茹だるような暑さが部屋中に蔓延していて絶賛夏バテ中だ。 着流しは着崩れ悲惨な事になっているし、止めどなく溢れる汗に体はベタつくのに風は全く入ってこなく、直射日光ばかりが降り注ぐ最も苦手な季節・・・ 「あっつい・・・」 もう何度目か分からないくらいに呟いてるであろう台詞だ。 口から暑いという単語が出る度に目の前でファイへと風を送り続けている黒鋼の眉間にシワがよっていく。 「黒たん・・・あつい・・・も・・・ダメ・・・」 もう一度呟けばうちわを扇いでいた手がピタリと止まりファイは不満げに黒鋼を見遣る 「んー・・・風・・・」 もう言葉を発する事すら煩わしくて単語だけを言えば更に黒鋼の眉間のシワは深まった。 「暑い暑い言ってたら余計暑くなるだろうが」 呆れを含んだ声色と視線を向けられファイは情けなく眉を下げた 「だって・・・もう暑すぎて・・・」 自分でも何を話しているか暑すぎて脳が理解出来ていない。 無意識のうちに呟いてしまうんだから仕方がない そもそも雪国しかしらないファイにとっての日本国の夏というものは想像を絶する暑さだ・・・ 身体中の水分を奪われるとはこういう事を言うのか・・・と初めて理解できた。 そして、暑さに耐久がない為いつ倒れても不思議ではないだろう (オレこのまま死んだらどうしよう・・・) そんな事を考えながらぐったりと畳に寝そべっていれば突然黒鋼が立ち上がった 「どう・・・したのー?」 力なく黒鋼に視線を向ければそのまま出口の方へと歩き出してしまった。 余りにだらだらしている自分に嫌気がさしたんだろうか・・・と少し不安になっていると襖の前でくるりと黒鋼が振り返った 「すぐ戻るからそのまま待ってろ」 「?」 「危ねぇからいきなり立ち上がったりすんなよ。大人しくしてろ」 そう言い残し黒鋼は部屋を後にした。 (いきなりどうしたんだろー) とりあえず怒ってる様子では無かった為粗方何か用事があったのだろう。と自己簡潔するとファイは再び畳へと突っ伏した 畳のひんやりとした感触が心地いがそれも直ぐに自らの体温により奪われる 「あつい・・・」 蚊のなくような声で紡がれた言葉は生暖かい風に消えていった *** 黒鋼が部屋を後にして数十分。 うちわで扇いでくれる人が居なくなったファイは更に暑さに悶えていた。 勿論自分で扇ぐ気力なんて残っては居ない というかもう指一本動かす事さえ億劫だ。 「黒たん早く戻ってきてよぅー」 このままでは本当に死にそうだ。と命の危険を感じてきたそのとき部屋の襖が開かれ低い声が空間にこだました 「大丈夫か?」 「黒た・・・ん」 待ちに待った人が戻ってきてくれた。さっそくまたうちわで扇いで貰おうと頼りなく視線を黒鋼へと向けた所でファイはある事に気づく 「それ、何?雪・・・?」 黒鋼の手にはお盆が乗っており、器に入った雪らしき物体に薄紅色の液体がかかっているものがお盆の真ん中に鎮座している 「雪じゃねぇよ。氷水だ。」 「氷水?」 「ああ。氷を砕いてシロップをかけた夏の甘味だ」 「・・・」 未知の食べ物であるそれを食い入るように見つめていれば容器がファイの目の前へと差し出された 「食うか?」 「うん」 恐る恐る竹製のスプーンで一口口に含めばひんやりとした柔らかい食感が広がりそれと同時に頭がキーンと傷んだ 「冷たくて頭痛いー」 こめかみ辺りを抑え眉を寄せる。キーンという感覚は辛いが体は先ほどよりも冷えて幾分か心地が良い 「一気に食うからだ。まぁ気休め程度には涼めんだろ」 「うん・・・涼しい・・・ちょっと生き返るかもー」 「お前は大袈裟なんだよ。とりあえずそれ食って体冷やせ」 呆れながらもうちわで再び風を送ってくれる黒鋼のさりげない優しさにファイは内心笑みを浮かべる 「ねぇ、これ黒たんが作ったのー?」 「他に誰が作るんだよ」 ぶっきらぼうに吐き捨てる黒鋼がなんだか可愛く見える 「ふふ。初めて食べるけど甘くて美味しいー」 「そうか」 雪国ではこんなものを食べるのは自殺行為に等しかったけれどこの暑さで食べるのはかなり気持ちが良い。 「黒たんは食べないのー?」 「甘いの苦手なの知ってんだろ?」 そんな甘ったるいもの食えるか。と顔をしかめる黒鋼にファイは唇を尖らせた 「えー美味しいのに」 「うっせぇ」 「折角作ったんだから食べればいいのに・・・」 そう言ったところである事に気付いた。 自分が食べないのにわざわざ作ったって事はオレの為って事だよね・・・? なんだかんだ文句を言いつつもうちわであおぎ続けてくれている黒鋼は本当に優しい 「黒たんって不器用だよねー」 「あ?」 黒鋼の端整な顔に一気に眉間のシワが寄せられたがファイはそんなのは気にしないという様子で続ける 「オレには甘いなーって」 「はぁ?」 怪訝な表情を浮かべる黒鋼を横目にまた一口氷水を口に含む。 暑くて何もする気は起きなくなる夏にはまだまだ慣れそうにはないが、たまにはこんな日もいいなとファイは頬を綻ばせた *end* うわわわ!すみませんよく分からない終わりになってしまいましたが・・・ みなさんに黒ファイの輪が広がる事を祈って! Thank you for 【哀の詩】冬華様 |