花火大会があるんだって。 食事の支度をしながらファイはそう切り出した。 夏休みに入って数週間が経過した。夏休みと言っても教師は会社員の様なもの。生徒の様に夏休みがある訳でもなく、黒鋼もファイも通常通り学校へと出勤している。夏休み明けには体育祭文化祭など、今年入学した一年生が慣れ始めた頃合いを狙い大きな行事がいくつも入り込んでいる。準備をするのは生徒だが、その準備の為の下準備や予定を組むのは教師の仕事だ。付け加えて黒鋼は休みに合わせて長時間の部活指導。ファイは受験対策の講義や監督業務も任されている。 部活の午前練習に向かった黒鋼を送り出してから出勤したファイは、生徒会の仕事に出ていた女子生徒から花火大会の話を聞いた。彼女は彼氏と行くらしく、浴衣の着付けを頑張っていると笑っていた。出店も出るからと先生も。と詳しい日程を教えてもらえば聞き覚えのある日にちだった。 「その日は…俺は合宿だぞ」 「だよね……」 黒鋼の部屋のリビング、目に付く場所に飾られた猫のカレンダーはファイが持ち込んだ物だ。互いの予定を書き込むのに使うそれは、ファイの字が多く書かれているが所々走り書きの様な少し荒っぽい字が並ぶ。帰宅してすぐカレンダーを確認すれば花火大会の二日前から黒鋼は剣道部の合宿に参加する事になっている。設備の整った大学の施設を利用する事となり、毎年長期休みの期間は他の学校も予約するほど人気の施設だ。去年は利用出来なかったから、と合宿の終日もギリギリまで練習をする事になっている。帰宅予定は花火大会当日の夜だ。引率者でもある黒鋼はその後すぐに帰る事も出来ない。 花火大会に連れて行ってやる。そう黒鋼が約束してくれたが今年は軒並み中止が相次ぎ、ようやく巡ってきたチャンスも予定が合わない。 「悪りぃな…」 「だ、大丈夫だよ。あのね、ユゥイもお祭りとか興味があるみたいだから誘ってみるよ」 だから気にしないで。 分かっていてもやはり落胆が大きい。ファイはそれを隠しながら話題を剣道部の合宿へと変えた。黒鋼が眉間に皺を寄せ、そんなファイを見ていた事になど一切気付かずに…。 『本当にごめんね、ファイ』 「いいから、今はお店の事だけ考えていて」 『うん……』 黒鋼と見に行くことが叶わなかった花火大会。ユゥイを誘ってみれば直ぐにYesの返事が返ってきた。屋台の雰囲気も花火も、ユゥイは体験したことが無かった。どうせなら浴衣を着ようかと二人で店まで眺めに行ったりもした――結局、自分達では着られないのであきらめたが――楽しんでいるファイの様子に安心したのか、黒鋼は屋台の品を食べ過ぎない様に注意をして合宿に向かった。 そして…。二日前に黒鋼を合宿に見送った花火大会当日。ユゥイはイタリア行きの飛行機に乗り込もうとしていた。 イタリアの店でトラブルが起きたらしく、急遽戻らなくてはいけなくなったのだ。 己の事を心配し、搭乗ギリギリまで電話を掛けてくるユゥイにファイは『しょうがないよ〜』と明るく振舞い、気にしない様に再度言い電話を切った。 切った途端に漏れ出す溜息。 窓の外はもうすぐ夕方になろうと言う時刻なのに、太陽が煌々と輝いていた。 祭りに行こうというのか、寮の下の道路には浴衣姿の女性や家族連れがちらほら見受けられる。もっと暗くなれば人数は増えるだろう。今から誘えるような知り合いの心当たりなど無く、一人で出かける気にもなれなかった。 ファイは再び漏れそうになる溜息を寸前で噛み殺し、しょうがない…と自分に言い聞かせるように小さく呟いた。 本人不在の黒鋼の部屋に入るのはいつもの事だった。 ほぼ毎日、黒鋼の部屋に合鍵で入り夕飯の支度をしながら帰宅を待つ。お酒を飲みながらくだらない話をしたり、交互に入浴したり…そのままベッドの上で抱き合うときもあれば何もしないで眠るときもある。自分の部屋より住み着いてしまった部屋は居心地が良く、逆に時々戻る自分の部屋が寂しくて逃げ出す時すらある。 ベランダからは打ち上げられる花火が見える。建物が邪魔で下の方は見えなかったりするが今のファイには正直どうでもいい事だった。一人きりの食事は味気無く、作りもしてない。 黒鋼と出かけていたら今頃怒られながらも屋台の品物を食べていたかもしれない。 ユゥイと出かけていたら今頃花火を見ながら黒鋼の事を思い出していたかもしれない。 もしも、もしもと考えて、結局現実はこれだ。 「(黒様…何時頃帰ってくるのかな…)」 ベランダの柵に体を預けながら、冷蔵庫から拝借したビールを流し込む。空腹状態で飲むアルコールはいつもより早い酔いを連れてきてくれるはずだ。 合宿で疲れているだろうし、今夜はゆっくりと寝かせた方が良い。これを飲んだら自分の部屋に戻ろう。残りを一気に煽るとガチャガチャと扉を開けようとする音が聞こえる。まさか、という思いと、そうであって欲しいと言う思いがファイの中で瞬時に廻った。 でもその音は確かにこの部屋の扉を開けようとする音で、ファイは中身の入っていない缶を投げ捨てる様に手放すと、玄関へと通じる短い廊下へと向かった。 部屋と廊下を隔てるドアを開けた瞬間、大きな何かが扉から入ってきた。 「…なんだ、居たんじゃねぇか」 「くろ…さま?」 「おう」 「何で…だ、って、合宿は?」 「帰ってきた」 そう言いながら黒鋼は重そうな鞄を下し、ドアの前で呆けているファイの肩を押してベランダの方へ向かった。いつもなら洗濯物は洗濯機に、シャワーを浴びてきてなど口にするし、黒鋼も言われなくてもさっさとする。それを全部後回しにして、ベランダへ向かったのだ。 「(帰ってきてくれたんだ……)」 何発も上がる花火の方ではなく、ファイの視線は黒鋼の顔へと注がれる。 少し日焼けをした気もする。体調も悪くなさそうだ。機嫌も悪くなさそうだ。走って帰ってきてくれたのか、Tシャツの首回りは僅かに色を濃くしている。普段なら風邪を引くからと早々に着替えを促すが、少しでも離れるのが嫌だった。 柵に手をついている黒鋼の腕に抱きつき、ギュッと目を瞑る。 慣れ親しんだ体温。慣れ親しんだ匂い。たった数日だと言うのに、心は黒鋼を渇望している。 そんなファイを見て、黒鋼は目を細めゆっくりと口を開いた。 「弟の方から電話があった」 「ユゥイから?」 「花火大会に行けなくて、お前が一人だ。少しでも早く帰ってこいって」 ユゥイの言葉はもっと優しかっただろう。 いったい何時の間に黒鋼に連絡を取っていたのか…。店からの連絡の後、急いで支度をして出て行ったというのに。自分が行けなくなった罪悪感でもあったのだろうか。帰ってきたら…否、明日にでも電話でお礼を言っておかないと。 それより先にお礼をいう人物が自分の隣に居る。 「ありがとう…。黒様」 「何がだ?」 「帰ってきてくれて、ありがとう」 「ここは俺の部屋だぞ」 「ふふ…じゃぁ、そう言う事にしておいてあげる」 黒鋼がファイの為に早く帰ってきたなど認めるわけなく、素直じゃないと心の中で呟いた。どこか鈍くなっていた心は、今はポカポカと温かい。 二人とも普段着、黒鋼に至っては汗に濡れているし、出店の商品も無い。花火は建物のせいでハッキリ見えない。けど黒鋼さえ隣に居れば、ファイはそれで良かった。 「あっ…星?」 「だろうな…最近は色々あるみてぇだし」 円を描く花火の合間に不思議な形の花火が上がる。 少し歪んでいたり、煙で見えなくなっているが言われれば『あぁ確かに』と言えるような物が上がっていく。昔も簡単な感じだったがあったと言う黒鋼にファイはふーんと頷いた。日本以外にも花火はあるがどうもショー的なイメージがある。日本の花火は職人芸とでも言えばいいのだろうか。 変形花火が数発続き、今度は連発花火へと変わった。 夢中になるあまり、手摺から身を乗り出そうとするファイを、黒鋼は後ろから腕を回し支えた。 「………」 触れてしまえば蓋を閉じていたはずの欲が零れ落ちてくる。 常に側にあった温もりは数日の間とはいえ離れていた。教職者として、そして試合を控えている生徒達を前にして、そんな感情を表に出すわけにもいかず、厳重に蓋を閉めて合宿に臨んだ。また頻繁ではないとはいえ離れることなど度々ある事だ。 そして今、離れていた温もりが自分の腕の中にある。 何かがゆっくりと広がるのを感じながら、黒鋼は目の前にある夜にも鮮やかに映る金糸に口付けた。 「く、くろさま!?」 「いいから…お前は花火でも見てろ」 そう言いながらファイの耳の後ろにも一つ口付を落とす。シャンプーの匂いと微かな汗の匂いがした。アルコールで少し高くなった体温が夏だと言うのに心地良い。 普段髪に隠れている耳朶を少し強めに噛み、穴に舌を差し込めばファイの口から驚いた様な少し甘い声が漏れだす。耳に直接響く水音がくすぐったくて、ファイの体は黒鋼の腕から逃げ出そうとする。それを押さえつけるようにしっかりと腰に腕を回し、反対の手はファイの顎を捕らえ何発も上がる花火の方へと向けさせる。 「ちゃんと見てろ」 「やっ…黒様…放して……っ」 「駄目だ」 「ベッド…ベッドに…行こう…」 「花火、見たかったんだろう?」 好きなだけ見ていろ。俺は俺で勝手にやっている。 耳の近くで低く笑う声。それはファイの大好きな声であると同時に、苦手な声でもあった。熱を持ち始めた体は黒鋼の声だけで溶けだしそうになる。 花火を見る為に室内の灯りは全て消してあるが、街灯が消えているわけではない。見ようと思えば二人が何をしているか分かるのだ。しかもここはベランダ。片隣りはファイの部屋だが反対は他の教師の部屋だ。そちら側に人影はないものの、花火の音に誘われて出てくるかもしれない。 身を捩って逃げようとするファイの体を服の上から探り、胸の尖りを見つけギュッと摘まみあげる。 「あっ…」 「何だ、もう尖っているな」 「んっ、…駄目だって黒様……」 声が抑えられない。 人差し指の間接辺りを噛みしめ声を抑えようとすれば、傷になるだろうと黒鋼の手が伸びてきて外され、押さえつけられる。その間も手は悪戯に動き、服の裾から入り込み、脇腹や臍の辺りを撫で上げ、今度は直接胸の尖りに触れる。摘ままれて硬くなっていたそこを、宥める様に優しく触れられる。もどかしい刺激にファイの体は無意識に震え、強い刺激を乞う。 花火の音に誘われてか、いつもより格段に人の気配が濃い夜。人々の笑い声も花火の音も、ファイの耳にはしっかり届いている。 見つかるかもしれない、見られるかもしれない。 上半身を撫でていた黒鋼の手が下半身へ。細い腿を下から上へ、反応を始めたファイの中心には一切触れず、ゆっくりと感度を高める触れ方を繰り返す。 「くろ…さま…っ」 「気持ちいいか?」 「んっ…」 自分の足で立つことが出来なくなったファイを支えながら、黒鋼はゆっくりとした動作で床に腰を下ろした。足を延ばせばぶつかるという、決して広いスペースではない。その分二人の距離はグッと近づき、座ってしまえば覗きこまない限り周囲から二人の姿は見えない。 ジリジリと金属音が花火の音に混じる。 流石に外で露出させるつもりはないのか、手をズボンの合わせ目に潜り込ませ反応している屹立をその下の膨らみごとゆっくりと揉み込む。背中からファイを抱き込む黒鋼の胸に体重を預けながら、ファイは直ぐ近くにあった黒鋼のシャツの布地を噛みしめた。 敏感な先端の割れ目に指を擦りつけ、括れた部分を強めに擦り上げれば不透明な液体が溢れ出し、黒鋼の手を濡らす。ベッド以外の場所での経験が無い訳ではないが、屋外となると話は別だ。こんな場所でも熱を持つ自分のはしたなさに呆れてしまう。黒鋼が時々ファイの事を淫乱だと言うがまさしくそうなのかもしれない。 止めて欲しい気持ちはあるのに『もっと』と望む自分が居る。 ファイの中心を攻める手を止めず、黒鋼は反対の手をファイの細い顎に掛けシャツから剥がし、生理的に流れた涙の痕を辿る様に舌を動かす。蒼い宝石の様な瞳に水の膜が出来ているのが街灯の灯りで分かった。その水滴を吸い上げる様に瞼の上から口付ける。 噛みしめるものが無くなり、ファイの口からは甘い声が漏れ始める。羞恥心が手伝ってか、何とか抑えよう声は小さいものの、情事の時の声だとハッキリと分かる物だ。いっそキスで口を塞いでしまえば声は漏れないと、少し舌を出して黒鋼を誘っても意地の悪い笑みを浮かべるだけで誘いには乗らない。それどころかさらにファイを啼かせようと、裾から再び手を侵入させ胸の尖りを撫で始める。 快楽に全て呑まれてしまえば楽なのに、断続して聞こえる花火の音とそれに合わせて上がる人の声にここは外なのだとファイに何度も突きつけ羞恥心ばかり高まる。 「んっ、…ん、あっ…」 「そんなに食いしばらなくても聞こえやしねぇよ」 「やっ!…っぁ…黒様もう…だ、め、だから」 「いいから…イケっ」 「ッ!!」 胸の尖りを強く摘まみ、屹立の窪みを刺激すればファイは呆気なく達した。下着どころか、ジーンズも身に着けた状態で黒鋼の手を白濁で汚し、溢れ出た分は未だ萎えきらない屹立を伝い落ちていく。濡れた下着に、まるで粗相をしたようだと、生理的なものと感情的なものが混ざり、ファイの瞳からは涙が零れ落ちていく。 「ばかぁ…」 「んだよ、よかったんだろ」 「でも…だって……!」 何と言えばこのぐちゃぐちゃとした感情が伝わるのか。力の抜けた拳で黒鋼の胸の辺りを叩いても、効かねぇぞと笑うだけだった。宥める様に腰の辺りを叩き、緩められたジーンズの後ろから黒鋼の手が入り込む。双丘の割れ目に何度も指を滑らせてみれば、窮屈な状態で吐き出したファイの体液は屹立を通り後ろまでも濡らしている。粘り気のある液体を纏った指が敏感な場所を行き来するたび、ファイの呼吸は少しずつ荒く、縋るように掴んだ黒鋼の腕に爪を立てた。 「黒…さま…ここは、いやっ…」 「大丈夫だ。ほら、腕回せ」 「うっ…やぁ…ぁっ!」 嫌だと首を振るファイを宥める様に背中を撫でながら、力なく垂れていた腕を自分の首に回させる。胡坐を掻いている黒鋼の上に座る状態で身を寄せ合えば、熱を持った部分が重なった。布越しだと言うのにその大きさも熱も伝わり、背中が粟立つ。 割れ目をなぞっていた指が一本、後孔へ潜り込んでくる。その衝撃に体は逃げる様に動くが、所詮は黒鋼の腕の中。ファイが動いたことによりさらにその部分を押し付け合う形となる。もどかしい刺激に一度イッただけでは満足しないこの体は、少しでも快楽を得ようとファイの意識を置いて腰が揺れだす。 そんなファイの姿を見て、黒鋼の口は僅かに上がった。 腰を揺らし快感を得ようとするファイの姿は、いやらしくも可愛い。 花火特有の火薬の混じった空気は此処まで届いているのか、どんなに熱中していてもここは外なのだと黒鋼に訴えかけてきている。それはファイも同じなのか、花火のせいでいつもより街全体が騒がしく、時々上がる笑い声にファイの体はビクリと震える。 気を紛らわす様に顔中にキスを繰り返す傍らで、後孔に潜り込ませた指でファイの良い所を探す。なかなか力の抜けないファイだが、無意識の内に内壁は銜え込んだ指を奥深くへと誘うように蠢く。それを言葉にして耳元で呟けば、いやいやと首を振り、黒鋼の首元に金糸が当たりくすぐったさとその痴態に自然に笑みは深くなる。 一般的な成人男性の指よりも長く太い黒鋼の指を根元まで銜え込み、尚且つスムーズに動くことが出来るようになる頃にはファイに腕は引き離すどころか縋りつき、達したくても達する事の出来ない程の緩やかな刺激に震えていた。 「もういいか…」 「んっ!」 最後に前立腺を掠めるようにして指を抜き、力の入らないファイの体を支えつつ、手摺に寄りかかる様な体勢する。縋りついていた黒鋼の体から離され、満足に一人で立つ事が出来ないファイは、ひんやりとした手摺に縋りつくしかなかった。 転倒防止用に高めの壁になっているそれはファイの胸の辺りまであり、体を僅かに動かすだけで黒鋼に散々弄られた尖りを掠める。こんな物にまで感じているのかとからかわれるのは簡単に想像出来、唇を噛みしめる事で耐えていた。結局はバレていたようで、喉の奥で噛み殺したような低い黒鋼の笑い声にファイの体温は一気に上がった。 素早くファイの下肢を覆っていた衣服を下ろし、片足だけ抜き取る。薄闇の中ファイの白い体が薄ら発光しているようにも見える。 「ほら、もう少し足を開け。入れられねぇだろうが」 「っ、きらい…もう、黒様なんて…きらい!」 涙交じりで悪態を吐くファイの腿の内側を撫でるように手を這わせながら開脚を促す。 口ではどれだけ嫌いだと言っても体は落ちきっている。中途半端に高められた熱は落ちる事も上りきる事も出来ず、結局は嫌いだと言っている黒鋼に縋るしかないのだ。 言われた通り足を広げると寄り添うようにファイの後ろに黒鋼が立つ。熱の塊が後孔に当てられ先走りを塗りつける様に数度動かす。 「んっ…」 入りそうで入らない感じがひどくじれったい。いっそ一思いに突いてくれたら…。 一際大きな音を立てて花火が上がる。何発も上がる大輪の花に、ファイの意識が逸れた瞬間、黒鋼が侵入してきた。 「…!?んぁあっ…っぁ!」 「くっ…少し力を抜け」 「ひっ、あ…む、り…だめぇ、……ッ」 異物を押し出そうとする内壁の動きを無視するように奥へ奥へと怒張が進んでいく。不安定な姿勢で変に力がかかり、必要以上に黒鋼の物を締め付けてしまう。その刺激がファイ自身へと返ってきてしまい、結果黒鋼の存在を強く感じる事となる。 数度軽く突き上げる様に腰を動かし、全てを収め満足そうに息をつくのが聞こえた。指とは比べ物にならない質量に息が詰まりそうになりながらも、この行為に慣れた体は無意識に快感を拾おうとする。ファイが慣れるまで待つように動こうとしない黒鋼を誘うにように、ファイの内壁は蠢く。 「……動くぞ」 「あっ…」 耳元に唇を寄せて発せられた低音に、背筋に一瞬何かが走った。手摺を命綱の様に握り込むファイの手に黒鋼の大きな手が重なり、反対はいつ崩れても可笑しくない腰を支えた。 「んっ……あっ、やっ…!」 馴染ませるような単調な動きは次第に激しくなる。感じる場所を執拗に突かれれば、抑えようと強く結んでいた唇から艶の混じった声が零れ落ちる。 次第に大きくなってくる声に、微かに残った理性は警笛を発し続ける。此処が外だという現実はどうあっても変わらない。ファイの声を聞いて何事かと出てくる人が居るかもしれない。ここは学園関係者で纏められている寮なのだ、そんな事があったら明日から学園に顔を出す事すら出来ない。 「……だぁ、め、くろさま…こ、れ…以上は!…だめぇ…」 「何が駄目だよ。抜こうとすると離さねぇのはお前だろうが」 「やぁっ、…ちが、う…も、もうだめ…だめだから……ひぁ…っ!」 どんなにファイが懇願しても黒鋼の動きが止まる事はない。せめて…、と唇を噛みしめる事で自分の声を抑えようとすればファイの手を押さえていた黒鋼の手が顎に伸び、そして無理矢理口を開けさせた。二本の指が口内に滑り込み、ファイの舌の表面を撫で上げると、くすぐったさに身を捩る。それがまた刺激となって嬌声を上げそうになるが、まともな音には聞こえない。 「…くぅろ、ひゃま……っ」 「唇を噛むな。噛むならこっちにしろ」 「んっ…」 そんな事出来ないと首を振ってみせるが、結局は歯をたてない様にしながらそって指に舌を這わせた。閉じる事の出来ない口からは涎が顎を伝い落ち、嬌声の代わりにくぐもった声が微かに響く。 「んっ、ぁ…ぁんっ!」 「………」 舌の表面を悪戯になぞっていた指は時々上顎の敏感の部分や、歯の感触を確かめるように動く。くすぐったいはずなのに、時々腰の奥がズシッと重くなうように感じた。無意識に、指に舌を絡め、時折吸い上げる。それは黒鋼自身を奉仕している時に似ていて、確かに自分の中に黒鋼が居るはずなのに、前にも一人いるのではないかと錯覚するほどだった。 懸命に黒鋼の指に舌を這わせるファイの姿に、黒鋼の中で加虐心がじわじわと浮かび上がってきた。 「美味そうに銜えているな…」 「んっ…んん…んっ!」 「ほら、もう少ししっかりと舌を使えよ」 強く揺さぶられ、指が抜けそうになり慌てて手摺を掴んでいた手で押さえる。そうすると体勢は前倒し気味となり、ファイの中心も、胸の尖りもざらついた壁に押し付けられる形となった。 「ひゃぁ…っあぁ…!」 「あんまりデケー声出すな。見つかっちまうぞ」 「んっ!……や、だって……んっ…ぁっ…!!」 揺さぶられるたびに尖りも中心も刺激され、口内にはまた黒鋼の指が滑り込んできた。嫌だと首を振っても律動が止まる事はなく、それどころかそれに合わせるようにファイの腰も淫らに動いた。 気持ちはどうあれ、与えられる快楽を体は貪欲に欲し、さらにそれを高めようとする。 快感に溶け始めた体はいつの間にか腰を突き出すような体勢となり、一層深くまで黒鋼を誘う。 「も、う…くろさま…ぁっ、ひっ…やっ……ッ!!」 「くっ…もう少し我慢しろ」 「やだぁ、む、り…むり…いっちゃ…いちゃうから……」 自ら絶頂に導こうと、限界まで膨らんだ屹立に手を伸ばそうとする前に、黒鋼はファイの根元を強く押さえつけた。限界まで来ていると言うのに、極める事も落ちる事も許されない状態で只管快楽を突きつけられ続ける。体液で濡れた後孔で怒張が動くたび、ぐちゅっと粘りついた水音をたて、聴覚をも犯していく。このまま…ずっとこのままだったら、と不安いなる位激しいものだった。 花火の音は耳に届いていると言うのに、もう認識することが出来ず。黒鋼の動きに翻弄されるだけだった。 「(もう、だめ…だめ…なのに…!)」 自分でさえ触れた事のない場所まで黒鋼の侵入を許している…。深いところまで受け入れていると言うのに、もっともっとと思ってしまう。 「ひっ…くっ…も、う…くろさ…ま、くろさまぁ…!」 「………」 ファイの声に激しく動くことで黒鋼は答えているようだった。 激しい律動に合わせて黒鋼の手が動く。中と外、同時に絶頂へと導かれ、そして――堕ちた――。 耳に辛うじて入った低い呻き声と、内側の熱で黒鋼が達したことを知る。 後ろに倒れそうになりながら、ファイの目に写ったのは大輪の花火だった。 「………」 「………」 温めのお湯を掬っては溢し、掬っては溢しを繰り返すファイの後ろには、叱られた犬の様な顔をした黒鋼が居た。気を抜けば溺れてしまいそうなファイを支えつつ、それでいてそれ以上の接触を許されないのは、ある意味自業自得なのかもしれない。 「……いい加減機嫌を直せ」 「………」 先ほどからこの調子だ。 達した直後気を失ったファイをそのままにするわけにもいかず、湯船に湯を溜めている間に処理を済ませようと指を動かしていれば何度も擦られて敏感になったそこは直ぐにそれを快感として受け入れ始めた。 意識を失っていると言うのに艶っぽい声を上げるファイに、黒鋼の理性は簡単に弾け飛んだ。 「黒たんの、ケダモノ…」 「……」 「節操なし、色情魔…」 「……」 「年中発情期、絶倫…」 「…それは非難してるのか?」 「当たり前でしょう!」 ファイが気絶しているにも関わらず始まった第二ラウンド。 温水が頭上から降る中でファイを床面に押し倒し、先ほどまで黒鋼を受け入れていた場所を本格的に弄り始める。挿入された時は、流石にファイの意識は戻ってきた。現状を把握する事も出来ず、目を覚ませば先程の行為は続いていたのかと思う程の快楽が襲ってくる。掠れてしまった声で何度も黒鋼の名前を呼び、説明してもらおうと思っても、結局は全てを言いきる前に嬌声へと変わってしまった。 「最後の方は自分から強請っていたくせに…」 「何か言った?黒たん…」 「いや、別に」 ファイが本気で怒っているわけではない。ただ少し照れているだけなのだろう。 その証拠のように黒鋼がそっと頬に触れると擦り寄る様に甘えてきた。 「(黒様が欲しかったのは、オレも同じだけど…)」 ほんの数日とは言え、離れて寂しかったのはファイも同じだ。その熱を欲していたのも同じ。止めてと言っても本気で逃げるような事はしなかった。 「……見られちゃった…かな?」 「さぁな」 「明日から学校行けなくなっちゃうよ……」 「隣の奴なら里帰りだ。他の連中も理事長命令で花火見物に行ってる」 「えっ?」 最初から大丈夫だと言っただろう。と黒鋼は水の中と言う事を利用して、ファイの体に出来るだけ負担にならない様に体勢を変えた。一番負担を与えた張本人であることには変わりはないが…。 「多分連絡が回っているぞ。弟からも行けなくなった連絡があったし…、てっきりお前も参加しているのかと思った」 「あっ…」 黒鋼が部屋に入ってきたとき、ファイが居る事に驚いていた。 携帯をマナーモードにして放置していたファイは、何度も連絡を入れていた黒鋼の着信に気付かなかったのだ。勿論回ってきているだろう連絡も…。 だが、ある意味そのおかげで黒鋼の二人きりで花火を見れたのだが。 「次は…」 「ん?」 「次は、ちゃんと連れて行く」 「……うん」 じゃ指切り、とワザと明るく言いながらファイは小指を差し出してきた。仕方ないと言った表情をしていた黒鋼だったが、その小指に自分の小指を絡ませた。 *お題:恋色花火 Text by ゆえ |